第5話|「この症状だけでは、中絶する理由にはなりません」

妊娠中のこと

車の中で、私は泣きながら電話に出ました。

電話の相手は、私が通っているクリニックの女性の先生でした。

中期スクリーニングで「脳室が大きい」と診断した先生ではありませんでしたが、

その先生は私の状況を把握してくれていたようでした。

私は、今までのことを話しました。

赤ちゃんの脳室が大きいと言われたこと。

大学病院を紹介されたこと。

でも、年末年始で受診が先になってしまうこと。

中絶できる期限が迫っていること。

そして、別の産婦人科でも「脳に異常がある」と言われたこと。

先生は私の話を聞いて、

「不安な気持ちがあるなら、また診るから来てください」

と言ってくれました。

でも、そのあとに言われた言葉。

それが、今でも忘れられません。

「この症状だけでは、中絶する理由にはなりません」

その言葉を聞いた瞬間、

私は、

「中絶できないんだ」

と思いました。

私はずっと、どうするべきなのか考えていました。

中絶についても調べていました。

費用も調べました。

もし、赤ちゃんに重い障害があるのなら。

家族の生活はどうなるんだろう。

長女はどうなるんだろう。

私たち夫婦に育てられるんだろうか。

いろんなことを考えていました。

だから、必要なら中絶することを考えていました。

でも。

「それでも中絶します」

とは、どうしても言えませんでした。

だって、まだ何も分からなかったから。

脳室が大きい。

脳に異常がある。

そこまでは分かった。

でも、それがどんな意味を持つのかは分からない。

もしかしたら、生まれてみたら普通なのかもしれない。

もしかしたら、何も問題がないのかもしれない。

そう思うと、怖くて決められませんでした。

お腹の中にいるのは、私の赤ちゃんです。

ずっと一緒に過ごしてきた、大切な命です。

「私の赤ちゃんだから、大丈夫」

そんな気持ちも、まだありました。

でも同時に、

「もし重い障害があったら?」

という怖さも消えない。

産むのも怖い。

中絶するのも怖い。

どちらを選んでも、後悔する気がしました。

私は、何が正解なのか分かりませんでした。

そして、もう一つ怖かったことがあります。

時間がないこと。

大学病院の受診日は、まだ先。

詳しいことが分からないまま、期限だけが近づいていました。

そして私は、仕事中の夫に泣きながら連絡しました。

電話越しに、私は今まで言われたことを全部話しました。

自分がどうしたいのかも、分からなくなっていました。

そんな私に、夫は言いました。

「私の決断を優先するよ」

その言葉を聞いて、私はまた泣きました。

夫も、きっとどうすればいいのか分からなかったと思います。

私だって分からない。

もう一度診てもらう事もできる。

でも、中絶する理由にはならない。

長女を連れてこのまま行くのは負担が大きすぎる。

何も分からないまま、もう大学病院の受診を待つことしかできないんだ。

そして、もうすぐ…。

私たちが選べる未来には、期限がありました。


※この記事は個人の体験をもとに書いています。

医療上の判断については、必ず主治医・医療機関にご相談ください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました