第10話|「このまま、終わってくれたら」

妊娠中のこと

「あと1週間くらいでしょう」

そう言われた日から、
私は毎日、お腹の中の赤ちゃんの胎動を感じていました。

ぽこっ。

ぐにゅっ。

小さな動き。

いつもなら、嬉しくて仕方がないはずでした。

「今日も動いてる」

そう思って、お腹を撫でるはずでした。

でも、このときの私は違いました。

胎動を感じるたびに、

苦しくなりました。

生きている。

まだ、この子はお腹の中で生きている。

そう分かるからこそ、

「この胎動が、なくなってしまったら」

そんなことを考えてしまいました。

そして、

胎動が少なくなるたびに、期待してしまった。

もうすぐなのかもしれない。

もう、この時間が終わるのかもしれない。

そう思ってしまいました。

ある日、遠方に住む母に電話をしました。

それまで、このことを話していませんでした。

「赤ちゃんね、あと1週間くらいかもしれないって言われた」

そう伝えました。

母は、

「赤ちゃん、動いているの分かるの?」

と聞きました。

「うん。動いてるよ」

そう答えると、

母は少し泣きそうな声になって、

「お腹の中で生きてるって分かるのに、その子が亡くなるときのことを考えなきゃいけないのは……辛いね」

そんなふうに話してくれました。

その言葉を聞いて、

私は初めて、

自分が置かれている状況の怖さを少しだけ実感したような気がしました。

それでも私は、

胎動が少なくなることを期待していました。

そして、

お腹に手を当てながら、

赤ちゃんに話しかけていました。

「もう頑張らなくていいんだよ」

「元気になってママのお腹に戻っておいで」

そう何度も言いました。

今思えば、

本当に自分勝手だったと思います。

この子は、苦しい中でも一生懸命生きようとしていたのに。

私はその命が終わることを、

どこかで待っていた。

同時に怖くもありました。

お腹の中で、

いったい何が起こっているんだろう。

赤ちゃんは苦しくないのかな。

ちゃんと生きているのかな。

今、どんな状態なんだろう。

私には何も分かりません。

確認する方法もありません。

ただ胎動を感じることしかできない。

それまでの人生で、

こんな世界に足を踏み入れたことはありませんでした。

「赤ちゃんが元気に育っています」

そう言われることを当たり前だと思っていた妊娠が、

いつの間にか、

「いつ、この妊娠が終わるだろうか」

と考える毎日になっていました。

そして私は、

何が起こるのか分からないまま、

ただひたすら、

「その時」を待つしかありませんでした。

お腹の中で動く、小さな命を感じながら。

その胎動がなくなることを願ってしまいながら。

私は、この1週間を過ごしていました。


※この記事は個人の体験をもとに書いています。

医療上の判断については、必ず主治医・医療機関にご相談ください。

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