第16話|「強い子だね」そう言われた日

妊娠中のこと

大学病院でのエコーは、毎回MFICUの中で受けるようになっていました。

他の妊婦さんと一緒にならないように、

先生が配慮してくださっていました。

いつものように、

赤ちゃんの状態をひとつずつ確認していきます。

腹水は、少し見えていました。

そして、

心臓の周りにも水がたまっていました。

明らかに、たまっている状態でした。

先生からは、

「ぎりぎり胎児水腫の状態と言えると思います」

と説明されました。

そして、この状態では

もし今、破水や陣痛が起きたとしても、

私たちが積極的な治療を望まないという選択ができる状態でもある。

そんな話もされました。

私たちが望んでいた、

「できるだけ赤ちゃんの力に任せる」

という方向。

その選択肢は、

まだ残されていました。

でも、

赤ちゃんの状態がこのままずっと同じとは限りません。

もし腹水が減って、

37週までお腹の中にいて、

体重が1500gを超えるようなことがあれば。

その時には、

「治療をする方向になる可能性もある」

と言われました。

私は、

その話を聞きながら、

なんとも言えない気持ちになりました。

赤ちゃんが元気になることは、

本来なら喜ぶことのはずなのに。

私たちは、

「元気になったら、どうするんだろう」

と考えなければならなかったからです。

さらに、

もしサイトメガロウイルスに対する積極的な治療を望むのであれば、

研究が進んでいる他県の大学病院を紹介することもできると言われました。

ただ、

かなりお金がかかる治療だという話でした。

そして、

赤ちゃんの頭の大きさ。

BPDは、

−5.8SD。

先生からは、

「頭の成長は止まっていると言える」

という説明がありました。

推定体重は、

600gほど。

羊水も少しずつ減ってきていました。

でも、

もう「いつ止まってもおかしくない」というくらい、

心臓に負担がかかっているわけではない。

まだ、赤ちゃんは

とても小さな身体で頑張っていました。

臍帯の血流も、改善してはいない。

それでも、

赤ちゃんは生きていました。

先生は赤ちゃんのことを、

「強い子だね」

と言ってくれました。

その言葉を聞いた瞬間。

私は、

自分の子どものことを、

ほんの少し、誇らしく思いました。

こんなに小さな身体で。

こんなにたくさんの問題を抱えて。

それでも、

まだ生きている。

確かに、

この子は強いのかもしれない。

そう思いました。

でも。

同時に、

こんなことも思ってしまいました。

強くなくてもいいのにな。

頑張らなくてもいいのに。

もう、

そんなに頑張らなくてもいいよ。

そう思っていました。

「強い子だね」

と言ってもらえたことが嬉しいのに、

その言葉を素直に喜びきれない自分もいました。

本当なら、

「頑張ってくれてありがとう」

って、

言えばいいのかもしれない。

でも私は、

この子が強く生きようとしていることが、

嬉しくもあり、

苦しくもありました。

だって私は、

この子が生きるために、

どこまで治療をするのか。

どこまで頑張らせるのか。

そんなことを、

もう考え始めていたから。

お腹の中では、

今日も小さな心臓が動いている。

その事実だけが、

私には不思議でした。

こんなに小さくて。

こんなに頭も小さくて。

血流も悪くて。

それでも、

この子はまだ、

生きている。

私はお腹に手を当てながら、

思いました。

強い子じゃなくてもいい。

この子がずっと苦しまないように。

ただ、それだけでいい。

この日もまた、

私はその小さな命を、

複雑な気持ちで見つめていました。

そして私はまだ知りませんでした。

このあと、

赤ちゃんの状態が、

少しずつ変わっていくことを。


※この記事は個人の体験をもとに書いています。

医療上の判断については、必ず主治医・医療機関にご相談ください。

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