第21話|34w0d 最後の妊婦健診

妊娠中のこと

「あと1週間くらいでしょう」

と言われたあの日から、

ずいぶんと時間が経っていた。

最初に異常が分かってからは、

3か月が経っていた。

赤ちゃんは、

まだお腹の中で生きていた。

そして、

また妊婦健診の日がやってきた。

いつものようにエコーをしてもらう。

私はもう、

以前ほど怯えなくなっていた。

もちろん、

何か悪いことを言われるんじゃないかという怖さはある。

でも、

この子がここまで頑張ってきたことを、

私は知っている。

今回、

まず気になったのは羊水だった。

羊水は前回より多くなっていた。

これまで、

「羊水が少ない」

と言われていたのに。

また、

状態が変わっている。

お腹の中は、

私には見ることのできない場所。

だからこそ、

エコーの画面に映る小さな数字ひとつひとつが、

この子の状態を知るための手がかりだった。

血流も確認する。

この頃には、

大きな悪化は見られていなかった。

心臓の周りの水は、

前回より大きく変わらず。

でも、

心臓そのものの大きさは、

以前のような拡大した状態ではない。

そして、

お腹に水が溜まっている様子もなかった。

一見すると、

落ち着いているようにも見える。

でも、

血管の抵抗はまだ高い。

だから、

「もう大丈夫」

というわけではない。

もうひとつ、気になるところがあった。

子宮頸管の長さは、既に

17mm。

短くなっていた。

この時は、34週0日。

34〜36週くらいで、

2cmを切ってくると、

入院になることがある。

と教えてもらった。

長女の妊娠の時も切迫早産で自宅安静だった。

長女の時と同じだ。

体質なのかな。

そう思った。

この状況を確認した先生から、

これからのことについて、

改めて話があった。

もし陣痛が始まったら、

15分間隔くらいになったところで連絡する。

そして、

自分たちで救急車を呼ぶのではなく、

まず病院に連絡する。

必要なら、

病院側で搬送を手配してもらう。

その時の赤ちゃんの状態によって、

都度相談しながら対応を決める。

その為、出産は小児科医の立ち合いになると思う。

もう、

出産がいつ始まってもおかしくない。

そういうところまで、

来ていた。

まだ出産予定日は1か月も先。

でも、この日から私は、急に思い立ち

出産準備を進めた。

産後は母に来てもらう予定だったので、

母が滞在するための部屋の準備。

母へのプレゼントの準備。

陣痛&入院バッグの準備。

これまで私は、

「この子がいつ亡くなるんだろう」

と思いながら、

毎日を過ごしてきた。

でも今は、

「生まれそう」

というところまで来ていた。

私は、

お腹を見つめた。

ここにいる。

まだ、

私のお腹の中にいる。

長かった。

本当に、

長かった。

「脳室が大きい」

と言われた日。

大学病院で、

脳の異常を告げられた日。

「あと1週間くらい」

と言われた日。

羊水検査をした日。

結果を待った日。

サイトメガロウイルスを、

何度も何度も検索した日。

「強い子だね」

と言われた日。

生まれた後の治療について、

先生たちと話した日。

そして、

「もしかしたら生きられるかもしれない」

と思い始めた日。

気がつけば、

ここまで来ていた。

怖い。

もちろん、

怖かった。

この子が生まれたら、

何が起こるのか分からない。

元気に泣くのか。

呼吸できるのか。

すぐに治療が必要なのか。

私が抱っこできるのか。

そもそも、

生きて生まれてきてくれるのか。

何ひとつ、

分からない。

それでも。

ここまで一緒に来た。

お腹の中で、

何度も危ないと言われながら、

この子は生き続けた。

私は、

この子が生まれることを、

本当に少しずつ待てるようになっていた。

この先、

いつ生まれてくるのか。

どんな顔で、

この子と初めて会うのか。

そして、

この小さな命が、

その先どこまで生きてくれるのか。

何も分からない。

ただひとつ分かっていたのは、

もうすぐ、この子に会う。

ということ。

長かった妊娠生活。

最初は、

ただ元気に生まれてきてほしかった。

途中から、

生まれることさえ、

想像できなくなった。

そして最後には、

生まれてくるかもしれない未来を、

少しずつ受け入れ始めていた。

そして、

出産準備も終わった、2日後。

いよいよ、その時が

静かにはじまる。


※この記事は個人の体験をもとに書いています。

医療上の判断については、必ず主治医・医療機関にご相談ください。

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