第1話|「脳室が大きい」と言われた日

妊娠中のこと

年末のある日。

私は長女をクリニックの託児所に預け、ひとりで受診していました。

この日は、妊娠中期のスクリーニング検査。

検査の同意書を提出して、いつも通り診察を待つ。

まさか、この日、自分のお腹の中にいる赤ちゃんの異常を告げられるなんて。

そんなこと、少しも思っていませんでした。

エコーが始まって、先生が赤ちゃんの頭を診ている時間が、なんとなく長い。

でも、そのときの私は、

「丁寧に診てくれているんだな」

くらいにしか思っていませんでした。

先生はなにも言わない。

エコーが終わって、診察室で先生と話しているときでした。

「脳室というところが大きいです」

そう言われました。

……脳室???

その言葉の意味も、よく分かりませんでした。

「大学病院を紹介するので、そこで診てもらってください」

大学病院…。

そう聞いても、まだどこか他人事でした。

診察室を出て、紹介状が出来るのを待っている間。

待合室の椅子に座りながら、夫に連絡しました。

「大学病院を紹介された」

そのとき、ふと思いました。

「中絶っていつまでなんだろう」

なんとなくスマホで調べました。

そして、そこで初めて時間の問題だと気付きました。

あと一週間しかない。

大学病院の受診は、年明けになる予定でした。

それでは間に合わない。

急に、思考が追い付かなくなり、待合室で涙が出そうになるのをぐっと堪えました。

一度、夫と話したい。

そう思って、私は家に帰りました。

出掛けていた夫が先に家に帰っていました。

「もし赤ちゃんに何かあったら、今回の妊娠はあきらめよう」

私たち夫婦はそう決めました。

だから、今すぐ大学病院で赤ちゃんを詳しく診てもらいたい。

私は頭がパニックのまま大学病院に連絡しました。

でも、大学病院を受診するには、まず今通っているクリニックを経由して予約をとる必要があると案内されました。

今度は今朝受診したクリニックに連絡しました。

中絶できる期限が迫っている事も伝えました。

「できるだけ早く大学病院で診てもらいたい」

そう伝えました。

でも、予約を前倒しすることはできませんでした。

今日診てくれた先生が、

「緊急性はない」

と判断したからでした。

夫は、「他の病院に行ってみよう」

と言ってくれました。

でも私は、もうどうしたらいいのか分からなくなっていました。

夫に別の病院に電話してもらうことも、自分で別の病院を探すこともできませんでした。

頭の中でいろんなことを考えているのに、何ひとつ整理できない。

ついさっきまで、普通に赤ちゃんを産むつもりだった。

それが突然、「脳室が大きい」と言われて。

大学病院に行くことになって。

中絶の期限を調べたら、あと一週間しかなくて。

でも、すぐには診てもらえない。

そして私は、何も答えが出ないまま、その日を終えました。

このときの私はまだ知りませんでした。

この「あと一週間」という時間が、私たち家族にとって、

どれほど大きな意味を持つことになるのかを。


※この記事は個人の体験をもとに書いています。

医療上の判断については、必ず主治医・医療機関にご相談ください。

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