赤ちゃんのことを考えない日はなかった。
お腹の中で、
ちゃんと生きているのか。
次の健診まで、
心臓は動いているのか。
もし生まれたら、
どうなるのか。
そんなことばかり考えていた。
でも、
そんな毎日の中で、
少しだけ違う時間があった。
弟の結婚式の日。
親族だけの、結婚式だった。
いつもならば、
朝から赤ちゃんのことを考えていたはずなのに。
この日は、
準備をして、
会場に着いて、
家族と話して、
新しい親族とご挨拶をして、
結婚式が始まって。
気がつけば私は、
何もかも忘れて笑っていた。
弟の晴れ姿を見て、
本当に嬉しくなった。
みんなで写真を撮って、
たわいもない話をして。
その時間だけは、
お腹の中の赤ちゃんに病気があることを、
忘れていた。
あんなに毎日、
頭から離れなかったのに。
この子がどうなるのか。
いつまで生きられるのか。
生まれてこられるのか。
そんなことを、
考えていない。
ただ、
その時間を楽しんでいた。
家族みんなで、
笑いあっていた。
その日は、
妊婦用に食事も少し配慮してくれていた。
「妊娠しているから」
と、
当たり前のように気遣ってもらえた。
そのことが、
なんだか嬉しかった。
お腹の中に赤ちゃんがいる。
その事実を、
誰かに特別なものとして扱ってもらえる。
それだけで、
少しだけ安心した。
もちろん、
ふとした瞬間に、
現実に戻ることもあった。
お腹に手を当てる。
この中に、
あの子がいる。
重い障害があるかもしれない。
生まれてくることができないかもしれない。
もし生まれてきたとしても、
厳しい治療が必要になるかもしれない。
そんなことを考えると、
胸が苦しくなった。
幸せな空間の中で、
私は、
この先の家族の未来を考えていた。
もしこの子が生まれたら。
家族はどうなるんだろう。
今周りにいる人たちは、
どう受け止めるんだろう。
私たちのせいで、
親族に負担をかけてしまうんじゃないか。
そんなことまで、
考えてしまっていた。
本当は、
誰にも迷惑をかけたくなかった。
家族にも。
親戚にも。
周りの人にも。
だから、
「自分がこの子を産むことで、
周りの誰かに大きな負担をかけてしまったらどうしよう」
そんな不安もあった。
でも、
その日だけは、
張り詰めていた気持ちが緩み、
そう深く考える時間はほんの僅かだった。
弟の幸せそうな顔を見て、
私も嬉しかった。
家族みんなが笑っている。
それだけで、
幸せだった。
もしかしたら、
私が欲しかったのは、
こういう普通の時間だったのかもしれない。
何も考えずに笑える時間。
明日のことを心配しなくていい時間。
ただ、
家族と一緒にいられる時間。
そして、
帰り道。
ふと、
お腹に手を当てた。
今日も、
ちゃんと動いている。
生きている。
私は、
この子がどうなるのかを、
まだ何も知らない。
それでも、
この子がお腹の中にいる時間は、
確かに私たちの大切な時間だった。
結婚式を終えて、
私は思った。
辛い気持ちを抱えている人はたくさんいる。
でもできることなら、
親族だけでも、
誰もこんな辛い思いをしてほしくない。
今日のように幸せな時間が
ずっと続いてほしい。
そんなことを、
ぼんやり考えていた。
そしてまた、
次の健診の日が近づいてきた。
楽しかった一日が終われば、
また現実が待っている。
お腹の中の赤ちゃんは、
今どうなっているんだろう。
次のエコーでは、
何を言われるんだろう。
私はまた、
あの小さな画面を見つめることになる。
※この記事は個人の体験をもとに書いています。
医療上の判断については、必ず主治医・医療機関にご相談ください。



コメント