「強い子だね」
そう言われた前回の妊婦健診から、しばらく経った。
相変わらず、お腹の中の赤ちゃんにはたくさんの問題があった。
頭はとても小さい。
心臓も大きい。
羊水も少なくなっている。
へその緒の血流も悪い。
そして、胎児水腫ぎりぎりの状態。
私はずっと、
「いつ、この子の心臓が止まるんだろう」
そんなことを考えながら過ごしていた。
次の健診の日も、
きっとまた悪くなっている。
そう思っていた。
エコーが始まる。
まず、心臓の周りに溜まっていた水。
ほんの少しだけど、減っている。
心臓の大きさは、
まだ大きい。
でも、急激に悪くなっているわけではない。
そして、血流も少し良くなっていた。
先生の話を聞きながら、
私は画面を見つめていた。
「……あれ?」
悪くなっていない。
むしろ、
少し良くなっているところがある。
でも、
赤ちゃんの推定体重は約611g。
前回から、
10gほどしか増えていなかった。
「血流も改善しているのに、なぜ体重が増えないんだろう」
先生は呟いた。
それでも、
腹水は以前より見えにくくなっていた。
心臓も、
今のところ明らかな心不全というわけではないらしい。
羊水は、
決して多くはないけれど、
この子はまだ、お腹の中で頑張っていた。
そして、また2週間。
次の健診の日。
エコーを見ながら、
私は先生の言葉を待っていた。
すると――
「体重、800gくらいありますね」
……800g?
前回は600gほどだった。
もちろんエコーで測る推定値だから、
実際の体重がその通りとは限らない。
先生は
頭の測定が難しいため、大きめにでているかもしれない。
と教えてくれた。
それでも、
少しずつ体重が増えている。
そして、
血流もほぼ正常に戻っていた。
「血流も、良くなっていますね。」
私は画面を見ながら、
何度も先生の言葉を頭の中で繰り返した。
良くなっている。
この子が?
あんなに悪いことばかり言われてきたのに?
もちろん、
「もう大丈夫」という話ではなかった。
頭は相変わらず、とても小さい。
これから先も、
どんな状態で生まれてくるのかは分からない。
障害がなくなるわけでもない。
生まれた後に、
どんなことが起こるのかも分からない。
それでも――
前とは明らかに違うことがひとつあった。
先生から、
こんな言葉が出た。
「意外と、生命予後が良いかもしれないですね」
……え?
私は一瞬、
意味が分からなかった。
生命予後。
この子が、
どれくらい生きられるのか。
それまで私は、
「あと1週間」
「今日、心臓が止まっているかもしれない」
そんなことばかり考えていた。
だから、
「生きられるかもしれない」
という方向の話をされること自体が、
なんだか不思議だった。
嬉しい。
……のかもしれない。
でも、
怖い。
その気持ちのほうが強かった。
だって私は、
この子が生まれてからのことを、
ほとんど考えていなかったから。
ずっと、
「生まれる前に亡くなる」
ことを前提に、
心の準備をしてきた。
それなのに。
もしかしたら、
この子は生まれてくるかもしれない。
もしかしたら、
生きるかもしれない。
そうなったら――
私は、
どうするんだろう。
「意外と、生命予後が良いかもしれない」
その言葉は、
私にとって希望だったのか。
それとも、
新しい不安の始まりだったのか。
このときの私は、
まだ分からなかった。
ただ、
お腹の中の小さな命が、
私が思っていたよりずっと強く、
ここに残っていることだけは分かった。
そして私は、
少しずつ、
「この子が生まれてくるかもしれない」
という未来を、
考え始めることになった。
※この記事は個人の体験をもとに書いています。
医療上の判断については、必ず主治医・医療機関にご相談ください。



コメント