第20話|少しずつ、良くなってる

妊娠中のこと

弟の結婚式から、

しばらく経った。

あの日だけは、

赤ちゃんのことを忘れて笑っていられた。

でも、

現実は変わっていない。

また、

妊婦健診の日がやってきた。

いつものように、

エコーの画面を見る。

私は、

先生が何を言うのかを待っていた。

以前なら、

エコーが始まるだけで怖かった。

「心臓は動いていますか?」

「また何か悪くなっていませんか?」

そんなことばかり考えていた。

でも、

この頃は少しだけ違った。

この子が、

まだ生きていることを、

私は知っている。

この状況に、

私の心は少しずつ追い付いてきたのかもしれない。

今回も、

いろいろなところを確認していく。

羊水。

血流。

心臓。

お腹の中の状態。

ひとつずつ、

画面を見ながら確認していく。

そして――

心臓の周りにあった水が、

また少し減っていた。

1.8mm。

以前は、

5mm近くあった。

それが、

1.8mmまで減っている。

負荷がかかり大きくなっていた心臓も、

以前ほど酷くはない。

もちろん、

「もう問題ない」

というわけではない。

この子には、

頭がとても小さいという大きな問題はどうしても消えない。

これまでの経過も、

決して普通ではない。

でも、

心臓の状態だけを見れば、

明らかに落ち着いてきている。

そして、

「腹水も、ほとんどないですね」

そんな言葉が聞こえた。

私は、

エコーの画面を見つめた。

不思議だった。

少し前まで、

「胎児水腫」

と言われていた。

「いつ何が起きてもおかしくない」

そんな気持ちで、

毎日を過ごしていた。

それなのに。

少しずつ、

悪かったところが、

良くなっている。

もちろん、

頭の小ささは変わらない。

この子が重い障害を抱えている可能性も、

なくなったわけではない。

生まれた後、

どんな状態になるのかも分からない。

だから、

「大丈夫になった」

なんて、

とても思えなかった。

それでも、

私は初めて、

少しだけ思った。

「この子、もしかして本当に生まれてくるのかな」

「あと1週間くらいでしょう」

そう言われた日から、

もう2か月以上経っている。

あの日、

私はその言葉を聞いて、

どこかホッとしていた。

この苦しい時間が、

もうすぐ終わると思ったから。

でも、

赤ちゃんはまだ、

お腹の中にいる。

一週間どころか、

その先まで、

生きている。

私はずっと、

この子が亡くなることを待っていた。

でも今は、

この子が生きていることを、

少しずつ、

受け入れ始めていた。

そして、

少しずつ、

私の中にも変化があった。

「生まれてこないかもしれない」

ではなく、

「生まれてきたらどうしよう」

と考えるようになった。

NICUの先生たちと、

生まれた後の話をした。

治療をするのか。

どこまで治療するのか。

どんな状態なら、

何を選ぶのか。

そんな話まで、

もう始まっている。

怖かった。

もちろん、

今でも怖い。

この子の未来が、

どうなるのか分からないから。

でも、

少し前までの私は、

未来そのものを考えることができなかった。

「生まれる」という未来が、

存在していなかったから。

それが今は、

少しだけ、

見えるようになってきた。

赤ちゃんは、

今日も生きている。

私が思っていたより、

ずっと強く。

でも、

私はまだ、

「強い子でいてほしい」

とは思えなかった。

できるなら、

苦しまないでほしい。

痛くないように。

怖くないように。

穏やかに、

この子の時間を過ごしてほしい。

ただ、

それだけだった。

それまでなら、

「いつまで生きられるんだろう」

と考えていた。

でもこの日は、

ほんの少しだけ違った。

「この子と、いつまで一緒にいられるんだろう」

そう思った。

同じようで、

少し違う。

私の中で、

何かが変わり始めていた。


※この記事は個人の体験をもとに書いています。

医療上の判断については、必ず主治医・医療機関にご相談ください。

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